story あの会社「ならでは」のストーリー

経営=ブランディング。視点としてのCSVは大切。
人の手でしかつくれないものを信じて、江戸時代の奈良晒と同じ製法を続ける。

― ―CSVの推進には、ブランディングが重要だと思っているのですが、その点についてはいかがですか。

中川政七氏:これは逆だと思います。経営が何より大切で、「経営=ブランディング」。ブランディングの中に、CSVという視点は大切だと思うんです。CSVを推進するためにブランディングをしている気持ちは一切ないです。CSVを推進しようと、あまり思っていないですね。結果的にCSVになっているという話で、社会貢献が前ではないんです。

食えていない産地の人が、「産地のために」と言うのではなく、「自分が食えていないから、まずは自分が生きられるように考えよう」と。その先に「産地のために」というのがあるので。

だからCSVは、自分が食えた後の話だと思います。食えない人にCSVを説いても仕方がない。そういう意味ではレベルの低い話だと思われるかもしれないですけど、本当に食えないんです。給料もびっくりするぐらい安いです。職人の平均手取りは7万ぐらいなんですよ。もっと深刻で、「生きるか死ぬか」。東京と地方では、全然違うんですよ。それが現実だというのを、僕らは身に染みて知っているので。

― ―そこにしっかり目を向けていらっしゃるのが、成功への一歩なのでしょうか。

中川政七氏:何を持って成功とするかですよね。利益を追求するなら、こういうやり方じゃない方が絶対いいと思います。時間を使って他所様の経営を立て直しても、そんなに儲からないですから。もちろん30年のスパンで考えると絶対効いてくるから、やっているわけですけど。短期利益追求とは違うんだろうなという気がします。

決算書を見ているか、どうか。決算書が良くなったか、どうか。

中川政七氏:世の中のコンサルタントは結果責任を負いにいかないですし、僕らの工芸の世界に戦略系コンサルタントはもちろんいないです。お手伝いするという意味では、先ほどのデザイナーやプロデューサーなどいろんな人が入っていますが、「決算書を見せてください」というところからやるのは相変わらず僕らだけです。でも決算書はその会社のカルテなので、体のどこが悪いかをまず見ないと。

クリエイティブディレクターは、例えるなら「専門医」。膝のスペシャリストではあるけれど、全般の医者ではないのです。なぜなら決算書を見ていないから。僕らも膝が悪いのはわかっていますけど、心臓が悪い人もいれば、血管が悪い人もいる。だから僕らはまず「カルテ=決算書」を見て、現実的に生存できるような方法から手を打っていくんです。

やっぱり、決算書を見ているかどうか。最初から僕らが「決算書を見せてください」と言うので、「中川はすぐお金、お金と言う」と、イメージで誤解されることも最初はありましたけど(笑)。生きていくかどうかだし、会社が良くなることは決算書が良くなることなので。「商品が100個売れましたね。良かったですね」とは、僕は言わないので。決算書が良くなったかどうかしかないんです。

SPA化とコンサルティングのかけ算。
直営店や展示会など、売り場を持っていることが強み。

― ―中川政七商店が起こしたイノベーションとは何でしょうか。

中川政七氏:どうして同じような人たちが現れないのかと言うと、うちが強いのは「売り場を持っている」からです。直営店だけではなくて、流通サポートをする展示会の機能も持っているから、売る力があるんです。その会社を根っこから立て直して行っても、結局最後はものを売るわけです。そこの実行力が、一個人だとなかなか難しいんです。うちはいろいろな販路を自前で持っているので、あの手この手を駆使できて結果として早い。イノベーションという観点では、「SPA業態をつくりあげたこと」と「コンサルティングのかけ算」がイノベーションなのかなと思います。

売るための出口を持っていない人から「中川は流通を持っているから成功しているんだ」と揶揄されるんですが、まさにその通りなんです。流通が無ければ、最後数字にならないですからね。ビジョンを掲げた時にそこまできれいに見えていたわけではないですが、ビジョンを掲げ、コンサルティングをやっていくと「流通までやらないと、どうしようもない」と気づきました。当時はうちも展示会に出る側でしたが、出る側だと限界があるので、「自分で展示会を催せるようにならないと」ということで積み重ねた結果が今なので、そう簡単には追いかけられないですよね。

― ―中川さんは、ものとコトの関係について、どうお考えですか。

中川政七氏:あまりピンとこないですね。「ものを買わない時代だ。これからはコト消費だ」というのが世の中の論調じゃないですか?でも、僕らはものを売っているので、それでもものを売るしかないですよね。マクロにあまり興味がないんです。「人口が減ります、だからものよりコト」と言われても手を出せないし、それでも売れるものをつくるし、人口が減っていっても食って行けるように考えるということだと思うので。社内でもよく言いますが、「手の届くところと手の届かないところをはっきりわけよう」と。手の届かないところの話はしない。はっきり言って、もの売りからすると「ものからコト」という話は、「逃げ」だと僕は思います。だって、買いますよ、ちょっとぐらい。

― ―「ものが無いとコトがはじまらない」と思っています。ものが根っこにあるんじゃないかと。

中川政七氏:産業観光とか旅行に行って、そこでお金が落ちるかどうかってお土産とか大切じゃないですか?ものですからね。ものだけで売れなくなっているのかもしれないけれど、そこに合わせ技としてコトが入っているのかもしれない。世間がどうであろうと、結局僕らはものをつくって売っていくしかないです。

― ―ものが、その人のいろいろな事柄につながっていきますよね。

中川政七氏:ものそのものだけで、売れるかどうかは決まらないです。それは4割だと僕は言っています。ものの背景にいろんなこと6割があって、はじめてこれが売れるかどうか決まるので、それをコトと言うのであればコトだと思います。

中川政七氏

中川政七 (なかがわ まさしち)

株式会社中川政七商店
代表取締役会長