story あの会社「ならでは」のストーリー

覚悟がある経営者とだけ、やる。
「基本の3本、次の1本」の全7本に絞った商品構成が特徴の「庖丁工房タダフサ」。
中川氏がコンサルティングした同ブランドは、今や産地をけん引する存在に。

― ―コンサルを依頼してくる会社について、基本的にお断りすることはないのですか?

中川政七氏:昔は「来るもの拒まず」でやっていたんですが、キャパシティーが追いつかないことと何回か途中で降りた案件があって「こういう案件は手をつけちゃいけない」という学びがあり、その2つの理由で今は全部を受けていません。「受ける・受けない」の視点は何かと言うと、技術力とか財務状況ではなく「経営者の覚悟があるかどうか」だけを見極めようと思っています。間違う時もありますけど。

コンサルタントだと「こうすべきです」と言うプランが提示されますが、僕らは家庭教師なので「こうやって」という話で、僕らのプランを選択する余地はクライアントには無いと思っています。なぜかと言うと、僕の方がうまいから。提案に乗らないのなら、お金を出して僕を呼ぶ必要はない。だってカツカツなんだし。だからやる以上は、乗るしかない。そこの覚悟をちゃんと持てる経営者だとやれますけど、そうじゃない経営者とはやれない。

アナログ的なことでしか、説明できない価値がある。

― ―全国にショップを展開されていますが、生活者と直接コンタクトを取れることが重要だと思いますが、そこの価値・強みを教えていただけますか。

中川政七氏:うちの商品の良さはアナログ的なことでしか説明できないので、「アナログの価値はアナログコミュニケーションがフィットする」ということじゃないかなと思います。うちもECをやっていて売上も伸びていますけど、「見たこともない、触ったこともない商品を買う」ということを、僕は未だに信じていないんです。買ってくださるのでありがたい話なんですが。

見て触ってしか伝わらないことがありますし、その部分でうちは勝負していると思うので。機能性だけで言ったら、同じ機能を果たすものが100円ショップにも売っていますし、数字で表せるスペックもすごいわけでもないだろうし。そう思うと、直接見て触ってもらう、そして会話するというのがうちにはあうので、お店が大切なのだと思います。

― ―直接見てもらうというアナログ的なコミュニケーションに、工芸の底力があるように感じるのですが。

中川政七氏:そうですね。人間の目はすごくて、ちょっとした違いで「あ、これはいい」とか「これは悪い」と感じるわけです。僕は詳しくないですけど、それぐらい目の機能は高いと思うし、同じく触ったものから感じられるものもすごい情報が入っていると思うんです。それをWEBで写真を見ても伝わりにくい。たまに商品開発のスケジュールが押していて、「写真で最終チェックをお願いします」ということがあるんですが「わかるわけない」と。もっと言うと会議室で見ていてもわからなくて、お店に置かれてはじめてわかることもある。そこは難しいですよね。手でつくっているので、それを感じられるのは手とか目とか、人的なものなんだろうなと。全部デジタルでつくられていると、また違ってくるんだと思います。

ブランドにふさわしい適正規模か、どうか。

― ―中川政七商店のブランディングについて教えていただけますか。

中川政七氏:ブランドには適正規模があると思っていて、「中川政七商店」はブランドを立ち上げる時から「ナショナルブランドとして50~60店舗やれるブランドにしよう」というのは意図してやっています。それに対して、「遊 中川」は僕が入社する前からありましたが、この業態は20店舗か、がんばっても30店舗ぐらいかなというのは感覚としてあるんです。売れてるから伸ばせ、売れてないから小さくしろ、ではなくて。ブランドはお客さんからの見え方の話なので、そこは最初からあります。

スケールアップすることが偉いとか希少価値が偉いとかではなくて、その商品そのブランドにふさわしい適正規模か。且つメーカーなので、つくる側のキャパシティーやロットなどの理屈もあるので、そことも折り合わないといけない。それが普段、僕らがやっていることです。

例えば、工芸とひと口に言っても、人間国宝のようにすごく技術が高い、でも量産ができない方もいれば、値段は安くて量をつくることに長けている職人さんもいて、どっちが偉いわけでもないんです。ただ、前者の人たちに量産品をつくらせようとしてもうまくいかないし、逆も然り。なので、製造背景とブランドの見え方とをフィットするようにつくってあげないとうまくいかない。そこをよく考えないといけないし、先ほどのデザイナーを呼んでくる話もそこをわかってもらわないといけないんですけど、経営者側がきちんとオリエンしないのでおかしなことになるわけです。

― ―変えないもの、変えていくもの、あると思うのですが。

中川政七氏:何を変えるのが正解、変えないのが正解というのは無いと思っています。「1から10まで手作業でやっていることを、1から6まで機械化しましょう。後の4は手作業を残しましょう」というのも、それが正しいかは僕には言えないし、「1から9まで機械でやって、最後を手作業で」というのも、どっちが正しいかはわからない。価値観そのものだと思うので。それが正しいと思えばそうやればいいし、それに同調、共感してくれるお客さんがいれば買ってくれるだろうし、それが嫌だと言う人は買わないし。そこにセオリーはないですよね。ブランドの価値観そのものだと思うので。

考え方を変えれば、工芸は無理ではない。

中川政七氏:手作業が入っていれば「工芸」だと思っていると言いましたが、経産省の「伝統的工芸品」は材料から作業手順から昔の通りやらないと「丸伝」と言われる伝統マークはもらえないわけなんです。それはそれでいいと思うんですが、伝統マークがついているものが本物でそれ以外は偽物かのように一時期思われていました。それは時代にフィットしないどころか進化を否定していて、そもそも「丸伝」ができたのは昭和49年でその時代に来るまでもいっぱい進化はしてきているわけです。

染物も昔は段取りが悪い染め方だったのが、いろいろな道具を開発して効率的にきれいに染められるように技術的革新を経て今に至っているのに、「丸伝」の基準でバシッと切ったらこれ以上伸びるなという話。でも人がやっている作業で何ら付加価値を生まない単純作業を機械に替えられるなら「替えればいい」と思うけれど、それをやると「丸伝」がつかなくなるから、ついている人たちはやらないか、隠れてやるか。それって、おかしいですよね。

海外のラグジュアリーブランドが、WEBで製造風景を出していたんです。普通のシルクスクリーンで機械化されたものを、職人っぽい人がやっているところを堂々と流すわけです。何も知らない人が見ると「手作業でやってるんだ」という感じですが、業界の人が見ると「オートスクリーンじゃん」となりますが、きれいな音楽と映像で職人が作業していると良く見えるわけです。日本の場合はそういうことを隠さなきゃと思っているし、その姿勢こそがブランドをダメにしていると思います。何も考えずに「丸伝から外れるとまずい」と思うから隠し続けている。ちょっと考え方を変えるだけで、伸びるんです。だから僕が今まで関わったところは、ほぼみんな伸びています。だから、「絶対に工芸は無理」という話ではないですね。

― ―そのような中川さんの考え方や取り組みに、反発はありませんか。

中川政七氏:一部の方からは、「中川は手仕事とか職人仕事を軽んじている」とよく言われますが、僕と仕事をしているメーカーさんは誰もそんなこと言いません。だから、職人の反発も一度も無いです。だって「生きるか死ぬか」なんですから。それを、都心で商売して給料を高くもらっているような人たちが「いや~、手仕事、最高ですよね~」などと言うのですが、僕らからしたらじゃあ「ちゃんとした値段で買って売ってあげてくださいよ」と思うのです。

中川政七氏

中川政七 (なかがわ まさしち)

株式会社中川政七商店
代表取締役会長