story あの会社「ならでは」のストーリー

工芸の世界は、やり方をわかっていない。

― ―「日本の工芸を元気にする!」を掲げられたわけですが、工芸が元気ではなかった原因は何だと思われますか?

中川政七氏:工芸に限らず日本は戦後の高度成長で、言い方は悪いですがつくればものが売れる時代があったわけです。それで工芸も急激に成長したと思うんです。そのピークが他と同じくバブルぐらいの時で、それを境に落ちていった。一般的な他の産業と同じ道をたどっているのですが、他の産業は5分の1になったかと言うとそうなっていない。その時、工芸の世界に起こった特殊性は「産地問屋が機能しなくなったこと」だと思うんです。

それまでものづくりは大雑把に言って、つくっているメーカー・工房・職人がいて、その産地には産地問屋がいて、次に消費地問屋と呼ばれる人たちがいて、その先に百貨店や小売店があるというのが一般的な流通経路。一つひとつの工房は会社の体にはなっているけれど、実は産地問屋の下についている製造部門にしかすぎなくて、全体で一個の会社だったんです。だから毎週、毎日FAXで来る通りつくって納品することが、彼らの仕事だった。それは会社というより、製造部門です。良い時はそれで成立していたんですよね。問屋さんがマーケティング機能を果たして。

それが売れなくなった時に問屋さんが何を考えたかというと、「高いから売れないんだ、同じものを中国でつくるぞ」と言って地元のメーカーを切って、中国に行ったわけです。その瞬間この人たちは切り離されて、一製造部門だったのがいきなり会社として経営しないといけなくなった。大げさに言うと、未だにFAXを待っているというのがこの30年。ここ10年、FAXは来ないんだとみんな気づいているので、何とかしようという機運は徐々に出てきている。ただやり方がさっぱりわからない。何となくデザインだ、ブランドだとやっているけれど、相変わらずやり方がわかっていないので何ともならないというのが現在。

― ―産地を元気にすることが、産地や社会の価値につながると思うんですが、その点をもう少し詳しくお聞かせいただけますか?

中川政七氏:社会課題解決という視点で見ると、日本の伝統的な素材や技術がどんどん失われていくという現実に対して歯止めをかけている。あるいは、復活させようとしているという意味での社会的価値はあるんだろうなと思います。一方でうちの経済価値は何かというと、それによって売上があがって利益が得られること。

この世界になぜうちの後追いが出てこないかと言うと、つくる人がいないから。ちょっと売れてもまったくスケールしないんです。だから大手からすると「そんなみみっちい商売をやっていられるか」ということで誰も入ってこない。小規模で始めて当たっても多店舗展開できないのは、そこに限界があるから。

増産する術も知恵もないんですよね。昔苦しかったから新しい職人を入れるのも大変だし、雇用し続けるのも難しいというのが先立つのかもしれませんが、彼らは思考停止になってしまう。「そんなの怖い怖い、無理無理」と言っている一方で、「後継者の問題が」と言っていたり。経営的な思考回路があまりないんですよね。

彼らは予算表を持っていないんですが、何も考えていないのとイコールですよね。本来であれば「予算をちゃんと立てましょうね。去年の予算とのギャップはこれです。これをどういう風にして埋めていくのか、誰に売っていくのか考えましょうね」という当たり前の作業をしてから商品の開発の話がはじまるわけです。

でも、みんなその前段を飛ばして「行政がデザイナーを連れてきたよ。すごい有名な先生らしいから、わからないけどお願いしようか」とやってしまっている。「ぜひよろしくお願いします。うちは、技術は何でもあるんで」と。それで先生が何かつくりますが、「どういう商流で、どんな価格で、どれだけの数を売って行こう」というのが無いから、大抵売れないわけですよね。

この10年15年、こういうことを延々繰り返しています。30年前にダメになった頃から今も昔もやっていることは変わっていない。デザインやブランディングが取りざたされて、上辺のデザインにみんな目が行っちゃっていて、「いやいや、その前の話だよ」と思います。

僕がやってきたことも、デザイナーがついている案件やもののデザインの方が話としてわかり良いので、包丁の「タダフサ」も柴田文江さんがやってくれましたとなると、「やっぱりデザインなんだ」と思うみたいです。でも、「いや、もっと根っこだから」と。僕が10年コンサルをやりながらずっと言っているけれど、未だにみんなにわかってもらえていないです。

経営をせずに戦っているのは、工芸だけではない。

― ―「日本で長く続いているのは家業で、企業ではない。スケーラブルではない。とマイケルポーター教授が言っている」という名和先生の話もありますが。

中川政七氏:まさにそうだと思います。みんな家業ですね。管理をせずに空気を吸うように仕事をしているのが家業で、もっとしっかりと考えてやっているのが企業。ただ、必ずしもスケールアップが目的ではないので、スケールの問題ではないと思います。そこは、はき違えない上でみんな未だに家業で、経営の部分のレベルが低いです。

九九を知らずに、大学受験をするような状況なんです。経営をせずに戦っている状況。だから、負けるのは決まっているんです。僕らはお手伝いする時には、九九を教えてそこからはじめるので、成績は伸びるに決まっていますよね。だから、それをやればいいんですがみんなやらない。家業と企業の違いをわかっていなくて、まともな経営をしている人はほとんどいません。工芸の世界で実際に僕が見てきて、感じていることです。

この話をデービッド・アトキンソン氏としていたら、彼が「何を言っているんですか、これは工芸だけじゃない。日本の企業は全部そうだ」と。その時は衝撃で、「だってそうだろう?人口が倍になって所得がすごい勢いで伸びた時期に伸びただけであって、誰も経営なんてしていない。日本は伝統的にホワイトカラーが弱い」と指摘をされて「なるほど」と思いました。でもそんな気がします。もちろん一流の大手企業はしっかりやっていると思いますけど、大手は全企業の1%もないわけですから。

中川政七氏

中川政七 (なかがわ まさしち)

株式会社中川政七商店
代表取締役会長