story あの会社「ならでは」のストーリー

「○○しない○○」に、カインズらしさがある。

― ―お店に並ぶ商品には必ず「○○しない○○」や「○○できる○○」というように、工夫の一言が名前についていますよね?

土屋社長:普通は「コップ」という名前で、「こういう何とかをしなくても大丈夫なコップなんです」と本来説明文で書くべきところを、商品名にしちゃっているのが特徴です。昔の話になりますけども、世の中にエンボスがついたしゃもじが売られていて。「しゃもじにはつきにくいけど、茶碗にはついちゃうじゃん」というところから、茶碗の中にエンボスをつけて「ごはんがつきにくい茶碗」というのを最初に出したんですよ。発端はその辺りじゃないかと思いますが、カインズらしさにつながっていきましたね。

カインズらしい工夫が施された「ごはんがつきにくい茶碗」

カインズらしい工夫が施された「ごはんがつきにくい茶碗」

― ―カインズの強みはやはり「親切心」が随所に出ているということでしょうか。

土屋社長:商品づくりは絶対的に強みだと思っていますが、ともすると必要とされていないのに無理に「○○しない」というのを、差をつけるためにつくっちゃいそうな気がするんですね。でも「○○しないというのは、そんなに必要ないじゃん」っていうのはあると思います。ですので、それをつくらせないための社内の仕組みがあって、それは当社の強みじゃないかなと。

カインズの商品は生活の中で使うものがほとんどです。当社で働いてる社員もパートさんも日中はカインズで働いていただいていますが家に帰ると主婦で、その目線で普段不便に思っていることがあるわけですね。例えば、「ハンガーを下の方にかけると服が床についてしまうし、上にかけたくても背が高くないからどうしよう」という不便さ。その悩みに対し、ハンガーの下にハンドルをつけて上に引っ掛けるというものをつくったことがあります。背の低い人でも上にかけやすいハンガーをつくったというのは、まさに「主婦目線」、「生活者目線」なんです。これは必要な「○○しない」なんですね。

僕らはつくることは得意で楽しいですから、「そんなのいらないじゃん」というものもつくってしまいがちですが、商品をつくった時に全体にトライアルしてもらう期間があって、「必要としてないよ」とか「そんな機能をつけるなら安くした方がいいよ」という言葉があがってきて、ボツになる商品もあるわけです。常に壁打ちがあることによって、生き残った「○○しない○○」だけが商品として残っているという仕組みなんです。

― ―ともすると「○○しない」をつくることが目的化してしまいそうです。

土屋社長:そうなんです。それだと本末転倒なので、本当に必要な改善テーマに取り組むことが大事だと思います。商品がある程度できた時にライフテストの期間があり、そこで試してもらうようになっています。そもそもアイデアはどこから出るかという話ですが、世の中にないものはなかなか思い浮かばないけれど、生活の中で「こんなものがあったらいいな」と思うことぐらいはあると思うんです。それをどんどん出してもらうボックスがあって、そこから採用することと、川上から持ってきてそこからアイデアを出すというのがあります。

当社の場合は年2回、商品展示会を実施していて、その中でいくつかのテーマ、カテゴリーをもうけて、カインズらしくつくる時に「何かいいアイデアはありますか?」というのを募ります。そうすることで、天才的なバイヤーでなくてもアイデアを聞くことができます。つくるのは別の部隊がいますから、そこから新たにものをつくれる可能性があるんですね。

僕も以前ミーティングに出たことがありまして、ハムスターゲージのカインズらしいあり方についてでした。家でハムスターを飼っていたので、僕もハムスターが滑車を回すと発電するというアイデアを出したんですが、ボツになりました(笑)。誰も採用してくれなくて。

― ―(笑) 社内でアイデアを考える際、社員の方たちは楽しく、ワクワクされながら考えているんでしょうか。

土屋社長:そうですね、ワイガヤですね。カテゴリーを超えて話しあっていると、インテリアの良い事例が今度はDIYで商品化することもあります。彼ら自体はライバルですから、その中でいいアイデアをお互いウォッチしているという状態になっていますね。

「ちょっとしたことを変える」ことに、ポジティブに。

― ―強みである商品や“Kindness”を使って、社会に対してどういう価値提供をされているとお考えでしょうか。

土屋社長:2000年以前のカインズは自社でのSPAにはこだわっていませんでした。通常のナショナルブランド商品を「いかに安く売るか」ということに、血眼になっていたわけです。生活者は同じ商品であれば安く買いたいわけですから、それはそれで価値のあることだと思うんです。悪くはないんですけども、ちょっと我慢すれば安く売れる、それは当社ならではの価値ではないと思ったんです。それで2000年以降、SPA型に切り替えた経緯があります。

大きなイノベーションではないですけれども、ちょっとしたことが楽になることの積み重ねが、生活を便利にすることにつながるんじゃないかと思っているんです。カインズのメッセージで、「世界を、日常から変える。」というものをつくりました。世界を変えるんだけども、それは「ちょっとしたことが便利になることが日常を変えることにつながるんだ」というメッセージ。ちょっとしたことを変えることに対して、ポジティブになろうよと。

例えば、スパッと切れるラップケース。日頃ラップを切る時に箱の歯で切ろうとしてもなかなか切れない。切ったら今度は変なところにくっついちゃうというのを、誰もが経験しているはずなんです。それがパカッと蓋を閉じた時にスパッと切れる体験が「なんて心地良いんだ」というのはすごく小さなことなんですけれども、生活上の中でちょっとクリアになる、ちょっと便利になるという積み重ねじゃないかと思っています。そういうものを大事にしようと思っています。

ちょっとしたことを便利にした「スパッと切れるラップケース」

例えば大きいテクノロジーで、ロケットで旅行するとか月に行けるとか大きなことなんですけども、それが一般の人にまで恩恵があるか。「世の中すごく変わったな」と思うのは相当時間もかかりますよね。ところが、ラップがスパッと切れるというのは、今日にでも恩恵があるわけなんです。「そういうことの方が大事なんじゃないの」というメッセージなんです。

cainz

土屋裕雅 (つちや ひろまさ)

株式会社カインズ 代表取締役社長