story あの会社「ならでは」のストーリー

フーディソン山本CEO インタビュー Vol.3

WEBで鮮魚仕入れできる飲食店専用のサービス「魚ポチ」、こだわりの魚を情報とセットで提供する鮮魚小売店「sakanabacca」を展開する株式会社フーディソン。「世界の食をもっと楽しく」をビジョンに掲げ、ITを導入して水産業界に今までの延長線上にない変化を起こそうとする同社。その原点には、「水産業界を変えることで世の中をハッピーにする。社会に貢献し続ける会社をつくる」という山本徹社長の志があった。水産業界の今、これからについて、フーディソンならではの話をお聞きした。
全5回でお届けします。

魚屋で儲けたいなら、はじめていない。

― ―業界とはちがった観点で捉える一方で、業界を知るために勉強をしながら現状を改善することも同時に実践されていると思います。とても難しいことだと思いますが、どのような信念で向き合われているのでしょうか。

山本CEO:魚屋で儲けようという話だったら、そもそもはじめていなかったです。ですから、ビジョンが重要ですよね。「私たちは何をしたいのか」。この業界を変えることで、世の中がハッピーになっていくことをやっていきたいよねと。教会をつくるためにレンガを積みましょうというのと、今日もとにかくレンガを積みましょうというのは大きな違いがある。そういう目的があるからやれるんだと思います。この業界では当たり前ではないかもしれないけれど、意味があるからやってみようとか、一歩進めるかどうかやってみようということに意味を感じながらやってくれていると思います。

― ―やはりビジョンが大事ということなんですね。

山本CEO:創業する時にビジョンとミッションに動機づいてやりはじめたことが、とても重要だったと思います。後付けやお金のためなら途中で整合が取れなくなったり、ブレてしまう。でも私は幸い前職での体験があったので、「社会と接点を持つ場」として会社は意味があるんだということに気づいて、会社に使命を持たせるのがビジョンであり、ミッションであることにつながったのが、これまでやってこれた一因だと思います。

情報がないと、感動は生まれない。
産地と直接つながることで、定番の魚だけではなく珍しい魚も取り揃えられている。

― ―ビジョンにもとづいて水産をより良い方向に変えようとするフーディソン「ならでは」とは何だと思われますか。

山本CEO:昔で言うと食べやすいサンマ、イワシ、アジ、タコのような定番のものが、ほど良いサイズで安く置かれていることが重要だったと思います。でも、今はニーズが多様化していて、「おいしものをちょっとだけ食べたい」とか「スーパーには置いていない、旅行先でおいしかったあの魚が食べたい」というニーズを満たすことで、私たちが存在する意味があると思います。小売店という場所で言うと、スーパーと同じフォーマットでやっていてもしょうがないですよね。

体験というのがポイントだと思います。例えば、同じアジでも静岡県産と千葉県産で金額が違います。私たちが静岡県産のアジを780円で売っている日に、周辺のスーパーでは特売で千葉県産が98円で売っている。それでも、私たちの静岡県産のアジの方が売れる。それはなぜかというと、そこに情報があるからです。「安い・98円・アジ」だと何とも思わない。おいしいものだったらお金を払える豊かさがあるので、価格だけの勝負ではなくて、「静岡産のアジは桜海老を食べているから桜海老の味や甘みを感じられますよ」という話をよろこんでいただける。おなかが減っているから何でも食べたいというのではないので、そういう情報が私は必要だと思っています。それは役割分担で、とにかく便利にいろいろなものを一か所で買えるスーパーは必要ですし、私たちが魚のセレクトショップをやるのであれば情報が無いと感動にならない。一回の食事が今までよりもおいしくなること、体験もセットで提供していくことに意味がある。大事なのは、情報をセットで持ってくることであり、その情報を伝えられる社員がいることであると思います。「こういう食べ方するとおいしいですよ」とか「こういうエサを食べているから今の時期おいしですよ」、「このめずらしい魚はこういう魚なんですよ」というような情報をよろこんでいただいていると思います。

― ―そのように、社員のみなさんがしっかりとした知識を持つことは、どのように成し遂げているのですか。

山本CEO:研修は実施していますが、私たち自身まだ弱いところだと思っています。どういったスキルや知識が必要かというのを定義しているところです。現状は魚が好きで、以前スーパーに勤務していた方が「本当はこういう魚を食べてほしい」、「本当はこの時期おいしい魚があるのに、本部一括仕入れのために安くてほどほどのものしか来ない」など、既存のやり方に不満を持っていた方が来てくれています。そういう意味では、採用のところに一つポイントがあるかもしれません。

― ―それも、ビジョンに共感できる方が集まってきているんでしょうか。

山本CEO:間違いなくそうだと思います。そこは頼りにしているところです。

情報をつなげて、全体最適にすることが大切。

― ―産地への情報の提供、フィードバック、情報の集約はどのように取り組まれているのでしょうか。

山本CEO:もっとデジタルに商売ができるようになればいいですが、現状はそこまで行っていません。まずは東京で評価されるため、そして東京で飲食店に売るのであれば「こういう仕立て方をしないと価値が出ないですよ」とか「産地で評価がついていなくてもこういう仕立て方で送ると価値が出るからやってください」というように、本来価値があるのに産地で埋もれてしまっているもの、産地と情報がつながっていないから認識されていないものに対して、価値をつけられるようなサポートもしています。例えば、神経の締め方や氷の当て方など、物流の間でのモノの悪くなり方に関係するので「水揚げしたらすぐ血を抜いてください」とかそういうことをしっかりやっていただくと流通がどんどん大きくなっていくんです。継続していくのも大変ではありますが。

― ―それは、むしろ産地の方々の方が詳しいと思っていました。

山本CEO:ある意味、市場できちんと評価されたらやるんです。神経を締めるとか血を抜くとか、技法を知らないことはないと思います。ただ一つは、産地においての「おいしい」と消費地においての「おいしい」が違うということがあると思います。例えば九州だと、水揚げした直後の鮮度が良い港の近くに街があって、「コリコリ」したものがおいしいという体験を歴史上してきている。ねっとりしたとか熟成させるという発想は全然ない。だから、必然的に醤油の味が濃くなりますし、刺身につきやすい醤油になるんです。それは文化として、醤油で味の濃さを担保していたんですね。一方東京では、時間が経ってから消費してきたわけです。江戸前で言うと、寿司屋がその文化を担ってきた。寝かしたり、昆布締めにしたり。ですから、知っているものがマッチしない時がある。この食べ方がおいしいのにというのが、食材の状態が違うとマッチしない。「産地で食べるとおいしいのに、東京で食べるとイマイチだよね」ということがおこります。ですので、東京というマーケットを狙うのであれば、そこで消費してもらうために必要なノウハウの提供、サポートが必要になってきます。

あとは、産地でしっかり評価されるかというのが重要です。血を抜いて出荷してもらうと身持ちがいいので、飲食店からするとロスが出にくくなる。当然、血を抜いて良い状態で送ってもらう方がいいわけです。一方で、血を抜いてしまうと目方が減ってしまう。そうするとキロいくらで勝負している産地からすると、血を抜かない方が良いという発想もあるらしいです。仮に行動原理がお金を稼ぐことだけだと、血を抜いた方が最終消費は良いんだけど産地においては血を抜くことが良いことにはならない、というケースもおきたりする。そういう意味で、きちんと情報を伝えてこういう手当てをして、直接出荷していただいたら買いますという話もできますよね。情報がつながっていないことが、部分最適のニーズになってしまう。全体最適にすることが大切なんです。

― ―産地が変わるとやり方やノウハウも変わってくるのでしょうか。

山本CEO:漁協の経営母体は農協に比べると小さくて、町内会みたいな感じです。「消費地に向けてしっかり販路を拡大していこう」と戦略を描いていく人がいれば動いていきます。でも、ある町内会では「みんなで仲良くやろうよ」、「新しいことはやらなくていいんだよ」と言って動かないこともある。みんな同じニーズではなく、そもそものあり方によって違ってしまう。彼らにとってどんなメリットがあるのか、我々もメリットを享受できる商品は何なのか、という観点で相手を選びます。すべての生産者と会うというよりは、今東京でニーズがあるものを産地で獲得できるかどうか。そして、会いに行った中で、一緒に未来を見られるかどうかが重要ですよね。

山本 徹

山本 徹 (やまもと とおる)
株式会社フーディソン 代表取締役CEO

北海道大学工学部卒業。不動産デベロッパーに入社。株式会社エス・エム・エスに創業メンバーとして参画し取締役に就任。ゼロからIPO後の成長フェーズまで人材事業のマネジメント、新規事業開発に携わる。2013年フーディソン創業、代表取締役CEOに就任。