interview 有識者インタビュー

小澤いぶき Vol.04

―――数値にしやすいものと、「つながりがない」というように数値にしづらいものに対して、何ができるのでしょうか。

小澤氏:「つながりを可視化する」こと自体は今の情報技術を使ってできるんじゃないかと思う反面、ソーシャルキャピタルは可視化しない方がいいとも言われていますよね。難しい話ですが。物理的な貧困ではなく、関係性の貧困とかソーシャルキャピタルの貧困があることを知ってもらうこと。あとはどこが薄いか、どこにソーシャルキャピタルが無いのかということも知っていかないといけない。

―――問題の本質がつながっているので、問題の本質を突きとめようとするとやってみないとわからないというのもありますよね。

小澤氏:そうですね。それが本当にいい方向に向かっているかを検証しながらやっていくということだと思うんですけど、やっていく内にもっと本質はこっちだったみたいなことが見えてくることもあるのかなと。孤立の要因もいくつかあって、「時代」という時間軸によって起こってきたものもあるので、今解決できないものもあると思うんです。少なくとも質がいいソーシャルキャピタル、本当にベーシックソーシャルキャピタルみたいな形で社会に置いていくというのを、専門家ではなくて市民の手で行っていくというのは一つ仮説としてつくり出しています。

それによって子どもたちのまわりのネットワークはどう分断したのか?とか子どもたちはどう変化したか?そのつくっている人側はどう変化したか?というのも定性的に取り出しています。そこが見えてくると、「これによって実はこういう変化が起こったので、見えない関係性みたいなものをつくっていく必要がありますよね」と言えると思います。

先日、公衆衛生の先生と話していて、「ソーシャルキャピタルが大事と言われているけれど難しい」とおっしゃっていました。なぜかというと、土地に依存するので「地縁があるかないか」、「血縁が濃いかどうか」が関係する。地縁や血縁に依存しすぎない「選択縁」としてのソーシャルキャピタル、生活動線上の人の関わりを変えることで生まれる新しいキャピタルをつくっていくというのが大事だという仮説を持っています。強すぎない、濃すぎない、ちょうどいいやさしさであるという。

―――マイケル・ポーター教授のCSVの考え「社会課題を食い物にして、企業の経済価値に変えていく」というのに日本企業は拒絶反応があります。一方、名和先生が提唱されている日本ならではのJ-CSVは、「社会に持続的に価値を提供するために、利益を得ていく」という考えで、目的と方法論が逆になっています。小澤さんが取り組んでいらっしゃるような社会課題の解決は簡単にできるものではないと思います。その点についてどのようにお考えですか。

小澤氏:「いろいろな社会課題がありますが、それは結構つながっていますよね。名和先生がおっしゃるのは根本のところをしっかり見なさいというお話だと思うんです。そうすると、資本主義社会のあり方や民主主義が機能していない状況をどうするかという話になってきますよね。仕組みを変えるというか、そこに目を向けることはすごく大事でどう機能させるのかとか。資本主義がありながら、どうやったら格差を最小限に留められるのかみたいな視点は大事で。

同時に人が生きている限りは、社会課題は生まれ続けるのではないかと思っています。根本的に解決したとしても、社会課題は結局相対化の中で起こると思っているんです。根本に目を向けながらも課題は起こり得るという前提で、それでもそれぞれがwell-beingな生きやすい状況をどうつくり続けていくかという視点が大事ではないかと思います。人の手で生み出してきた、他者や集団の人生を不条理に奪うようなことや他者や集団のwell beingを不当に損なっていくような課題をいかに生まれづらくしていくか。格差や貧困であること、孤立してしまうことで誰にも頼れなくて自殺に追い込まれる状態であるとか。

社会課題は生み出され続けるという前提に立ち、自分も生み出している一員だという認識を持ってどう関わるのか。その行動の総和自体が、もしかしたら社会課題を生み出しづらい土壌をつくっていくのではないかと私は思っています。これだけエネルギーを使っているので、誰もが社会課題を生み出さないのは難しいです。私も生み出しています。

誰か優れた人だけが社会課題を解決するという時代ではないと思うんです。これだけ課題が多岐に渡っているとしたら、それぞれの想像力と行動変容の総和によって「どうやってその土壌を耕すか」をもう一回ちゃんとやっていく必要があるんじゃないかなと。それが、今の仕組みづくりにつながっています。

―――今後の活動やビジョンについてお聞かせください。

小澤氏:今は人が元々持っているだろう想像力をONにできないくらい、大変で忙しい状況があると思います。その人たちが想像力をONにして自分なりに人との関わりをどう変えていくか、日常生活の動線上にいる人に目を向けていくか。自然との関わりを変える人もいると思うんですけれど。そういうことをやる人を増やしていく時に、生活動線上にいる人や企業と組むというのは一つあります。

いきなり極端な話ですけど、過激派組織の暴力的な行動も紛争の原因になりますよね。よって立つものがない時に、信じるものが暴力的なものだったとして、それって、信頼を失った構造の問題なんだと思うんです。そして、過激派が誰にリクルーティングしているかと言うと、孤立しやすい方々や、例えばヨーロッパなどだと少年院だったりもします。

私自体の根っこには、「すべての人が平和に向かうプロセスに存在する」というのがあります。グローバルで、紛争であったり、孤立であったり、様々な状況にいる方々と関わっている人とのやりとりをする機会が少しずつ増えてきました。

今の活動の先に、地球のどこにいても、誰もが一人の市民として子どもたちの周りに暴力的な関わりではなく、寛容な関わりを生み出していけるようなプラットホームをつくっていきたいです。一緒に共通項を探して、それぞれの文化に合わせた方法に還元するという循環が生まれていくような。

先日も、紛争のことに関わってきた方と、テロの問題と今自分たちがやっていることは、根っこの部分で共通しているかもしれないと話していました。人が孤立しない、社会集団から分断されないような状態で、その人たちが安心できるとか役割のあるコミュニティがあること自体がテロの予防になる可能性もあると思っています。

人が孤立しないような土壌やリレーションを耕していくことにつながると思っていて。例えばですが、コンビニで働く人が「自分の職能を変えることが、実は平和につながっているんだ」というところまで人が想像を持てるようなコミュニティ、エンパワーメントネットワークをつくっていきたいと考えています。それ自体が人の想像力や関わり方を耕し続けることにつながるんじゃないかと思っているので。人が想像力を拡張できるようなことをつくり続けたいですし、日本に留まらずネットワークでつくっていきたいです。

PIECES 小澤代表へのインタビューは今回で終わります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

小澤いぶき

小澤いぶき

2013年PIECESの前身となるDICを立ち上げ、2016年PIECESを設立。
精神科医、児童精神科医として臨床に携わる中で、様々な環境に生きる子どもたちに出会う。子どもたちが豊かに育つ社会を目指し、子どもたちが孤立しない仕組みづくりや「コミュニティユースワーカー」育成など、子どもたちの可能性が活かされる多様性のある生態系づくりに取り組む。

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