interview 有識者インタビュー

小澤いぶき Vol.02

―――PIECESの「コミュニティユースワーカー」について教えていただけますか。

小澤氏:しんどい状況に陥る人というのは、多分時代が変わっても出てくると思うんです。そこを誰かどこかの分野が一手に担うという状況から、「一人一人が何らかの課題を生み出している一人だ、システムをつくっているんだ」という視点に立って、日常生活の中で他者や生活動線上で孤立しやすい状況の人との関わりを変える仕組みが「コミュニティユースワーカー」なんですね。

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専門家ではなくて市民一人として、「自分の生活動線上にいる子どもにどういう視点、眼差しを向けていくか」、「どういう関わりをつくっていくか」ということをできる人を育成しています。単に子どもを取り巻く社会の課題や関わり方にについて情報として知ってもらう、というだけでは人はなかなか変わらない。私たちはそこに「体験」と「リフレクション」を加えることで、人の意識や行動が身体性を帯びながら変化していってしまうというのを目指しているんです。

コミュニティユースワーカーになっていくプロセスは、子どもたちに6カ月間関わってもらって、その関わりによって「自分の何が変わったか」、「自分はどんな価値観を持って生きていたか」とか、それによって「子どもの願いはどうなったか」ということを、チームでずっとリフレクションし続けることをしています。一方的に講義を受けるという育成でもなくて、「体験をどう自分の人生に意味づけていくか」、「体験によって子どもの変化をどういう風に自分の価値観の中にインストールしていくか」ということをやっています。

―――コミュニティユースワーカーになる方は子どもを孤立から守るだけではなく、その方自身も成長していくわけですね。

小澤氏:喚起されていくという方が正しいんですかね、evocateされていくと言うか。コミュニティユースワーカーになる人たちが、自分がどんな価値観、どんな眼鏡で普段世界を見ていたか気づいたとか、それを外した時に他者とどう関わるかが変わったとか。子どもだけじゃなくて、日々の生活の中で他者に対して想像力をONする機会が増えることが実際に起こっているのが現状です。

孤立した子どもたちをコミュニティユースワーカーがサポートする。
孤立した子どもたちをコミュニティユースワーカーがサポートする。 素材提供:PIECES

小澤氏:自分が持っている眼鏡でわかっているつもりになってたことは、実は自分の眼鏡にすぎないんですね。他者のことって永遠にわからないと思うんですけど、わからないことを知ってそれでも他者のナラティブ、物語を想像していくとか、子どもであればその子の願いを想像していく営みが生まれるかが大切です。

どう関わるかで、その人のナラティブを豊かにできる。

―――自分が持っている「専門性」というのが、ある意味色眼鏡になっているのかもしれませんね。

小澤氏:そうですね。専門性や自分の価値観、信念は自分を形づくる大事なものです。それ故に見えなくなっているものって結構多いと思うんです。それは大切にしながらも、一回置いておくといいのかもしれません。

ナラティブは元々心理学から生まれていて、私は児童精神科医としてトラウマケアをやっていたんですけど、トラウマケアの一つの手法として、その子のナラティブがその子の手で再構築されていくお手伝いをするというのがあるんですよね。

人ってすごくショックな事が起こった時に、そのショックなことによって、時に自分にとっていい影響を及ぼさないような認知だけで物語が構成されていくことがあるんです。「すべては自分のせいに違いない」という物語になっていくように。それをもう一度つくり直していく。「あの時あなたはこんな風に感じていたんだね。それでもよく頑張って生きてきたね。それからもこうやって頑張ってきたよね」という物語に。それぞれが持つ物語に対して、他者がどう関わるかでその相手の物語も豊かになるし自分の物語も豊かになる、ということをコミュニティユースワーカーにも伝えるようにしています。

―――コミュニティユースワーカーになりたい人は、どのようにして参加されるのでしょうか。

小澤氏:今はネット、Facebook、Twitterで募集をかけていて、そこからですね。1回だいたい100人ぐらい申し込みがあって、子どもに関わってリフレクション6カ月というのはハードなので、実際にエントリーするのは40人~50人ぐらいになるんですけど、社会人の方も結構多いです。何かやってみたいけどどうやっていいかわからなかった方や日々の仕事が忙しくて自分はこのままでいいのかと考える方など様々です。

今期は12名のコミュニティユースワーカーを育成しているんですが、一度20名ぐらい採った時はコミュニティが多くなりすぎてリフレクションやお互いのリレーションシップが薄くなってしまって、コミットメントが下がった方が何人かいました。中には途中で離れてしまった人もいて、そこで話を聞いてわかったのは、コミュニティユースワーカーはただ子どものことを想像して関わる人ではなく、その人自身の人生も豊かになる、その人がやっていることが自分の物語にちゃんと意味づけられていくとか、自分の役割を見出していけることがコミットメントの重要なことだと。そこを見出せないとドロップアウトしてしまうんだ、ということがわかったので意味づけは丁寧にやりました。

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多様性を帯びたコミュニティユースワーカーを育成している。 素材提供:PIECES

コミュニティユースワーカーの育成をどこに導入していくかを変えていくフェーズなんですが、現時点では募集人数の枠を決めて選考という形を取らせていただいています。本当はどんな人でもいろいろな人の物語を想像しながら自分の物語も豊かになればいいなと思うんですけど、コミュニティユースワーカーのコミュニティ自体も多様性を帯びている必要があるので、やりたい人が皆やれるわけではありません。今後は様々な団体さんや企業さんと協働しながら、より多くの人に届くようにしていきたいと考えています。

小澤いぶき

小澤いぶき

2013年PIECESの前身となるDICを立ち上げ、2016年PIECESを設立。
精神科医、児童精神科医として臨床に携わる中で、様々な環境に生きる子どもたちに出会う。子どもたちが豊かに育つ社会を目指し、子どもたちが孤立しない仕組みづくりや「コミュニティユースワーカー」育成など、子どもたちの可能性が活かされる多様性のある生態系づくりに取り組む。

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